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紙の月/いいじゃない、綺麗なんだから

こんばんは、町田です。はー、いいものをみた。今日は『紙の月』の感想です。ネタバレありますので確実に観た人だけ読んでほしい…前情報少なめで観て味わってほしい…。

 

あらすじ

バブルがはじけて間もない1994年、銀行の契約社員として働く平凡な主婦・梅澤梨花(宮沢りえ)は綿密な仕事への取り組みや周囲への気配りが好意的に評価され、上司や顧客から信頼されるようになる。一方、自分に関心のない夫との関係にむなしさを抱く中、年下の大学生・光太と出会い不倫関係に陥っていく。彼と逢瀬を重ねていくうちに金銭感覚がまひしてしまった梨花は、顧客の預金を使い始めてしまい……。

Yahoo!映画のページから持ってきたあらすじです。ずいぶん印象が違う…、職場で好意的に評価され、とかそんな積極的な感じじゃなかったし、自分に関心のない夫っていうのもなんだか言い過ぎに聞こえます、関心どうこうというより人の気持ちに気づけないタイプの夫に思えました。

 

あと、映画の内容が原作小説とも細かいところでずいぶん違うみたいですね。

ウィキペディア情報によると、原作では梨花の実家が別荘があるほど裕福だったり、結婚前はカード会社で働いていた経験があったりするみたいです。映画では働いた経験なんて語られていませんでしたし、なんなら銀行パートが初めてっぽかったですよね。育ちについては特になく、カトリック系の学校に通っていて、パパの書斎があってお金がいっぱい入ったお財布が置いてあって、と、まあお嬢様らしいことはわかるもののはっきり触れられてはいませんでした。

 

あとは夫の性格。

以下、ウィキペディアより引用します。

愛する人と幸せな日々のはずだったが、子どももできず、何をするにも夫に許可をとらなければならない立場というのは梨花には窮屈で、次第に暗い気持ちになっていく。しかし、友人の中條亜紀に、前職を生かして銀行でパートタイマーをするのはどうかと勧められ、再び働きに出ることを決める。営業という仕事は楽しく自分に合っており梨花は明るさを取り戻すが、夫である正文は梨花が稼ぐのがおもしろくないようで、折りに触れて梨花の収入の低さや仕事の重要度の違いを遠回しに言い、あくまでも経済力が上で養っているのは自分の方だということを暗に示すのだった。

い、嫌な夫…。映画では、確かに梨花の仕事なんて大したものじゃないって思ってるのを隠しもしませんし、もろもろ無神経なところはありましたが、上下関係をアピールしてくるような腹立たしい奴ではありませんでした。田辺誠一だし。あのふんわり感でなにもかもマイルドだし。基本は自分のことしか考えてない夫だけど、別に嫌味ったらしいところはなく、わりと普通の人だったと思います。

 

この、梨花の動機になるいろんなことが違ってくるんですね。自分でしっかり働いていた過去があればお金への意識も違うでしょうし、夫への反発を感じていて色々と事を起こしたとなるとそれはわかりやすい動機のひとつと言えそうです。映画にはこれがないんですよね、はっきり反発してるって感じじゃないんです。日常に不満のある女性、とかには見えないんですよ、そんな輪郭のくっきりしたわかりやすい話じゃないんですよ。

わたしは原作未読なんですが、これは原作と映画では味わいがまったく違いそうですね!

原作には大島優子も小林聡美もいないみたいですし。大筋は同じなのに別物…、おもしろいです。

前半の感想(恋愛映画ではない)

というわけで感想いきます。

若い男に入れ込んで横領する銀行員の話、小林聡美がこわい、くらいしか前情報がなかったので、観ていて序盤からイメージと全然違いました。

 

まず、若い男に入れ込む、というやつ。

りかさんは、あっさり、気まぐれのように踏み出します。恋に落ちた~!って感じじゃなかったです。恋愛の部分はおまけなんですよこの映画。きっかけは若い男と出会ったことだったけど、別にそいつじゃなくてもよかったんですよね。若い男、池松壮亮くん、ほどよく無邪気で嫌味がなくて好演でしたけどね。

 

化粧品買って、男と寝て、そこで「やりたいことはやりたいじゃないですか」っていう、大島優子演じる同じ銀行に勤める若い女の子のせりふ。そのせりふから、歯止めが利かなくなったように見えました。

誘惑の大島優子と、理性の小林聡美。そのあいだにいる宮沢りえ。

大島さんと小林さんが演じるのは映画オリジナルの登場人物らしいですが、これけっこう見事なバランスだと思います。象徴的で。

そして歯止めの利かないりかさんは、きれいなコートを買って、終業時間が待ち遠しくなって、銀行を出る前に口紅を塗るようになって…。

 

そして夫とのずれ。

原作ほど嫌な夫ではないとはいえ、もうちょっとここの関係性が違えば、りかさんもそこまでいろいろやらなかったんじゃないかと思います。

カードを持ちたいって言うりかさんを笑って、うっすら反対してくる夫。

ペアっぽい腕時計をあげたら気軽でちょうどいいとか言って、直後に高級腕時計をお土産で買ってくる夫。

りかさんはやっと契約社員になったのに、上海転勤だからついてくるのは当然と思っていてそう言い放つ夫。

うーん、田辺誠一のとぼけた感じでごまかされてましたが、これけっこう腹立たしいですね…Yahoo!知恵袋とかに相談されてそうな夫よ。

 

若い男にお金を渡すために、お金持ちのふりをするりかさん。顧客がしてた話そのまましたりして。誰かが言ってたことを口にする、っていうシーン、これ以外にもあったと思うんだけど何だったかな…。

で、まあとにかくBMW買うのやめたお金が浮いちゃった、って札束を渡すんですよね。

「受け取ったらたぶんなんか変わっちゃうよ?」

っていうの、よかったです。若い男の。

金持ちの奥様を望んで近づいたわけじゃなかった、っていうのがね、最初は多少恋愛のような気持ちがあったんでしょうね…って夢を見られるせりふです。いや結局受け取ったけどお金。

 

そのあたりで挟まれる、「受けるより与える方が幸いである」というりかさん学生時代の回想。

これもずるい。けっこう衝撃でした。

あ、そんな感じで与えてるわけ!?って。

何かを他人に与えて感謝されることで欲求を満たすっていう、欲求としてはふつうなんだけど、それへの渇望が人より強いんでしょうか。あの夫じゃ満たしてくれなさそうだもんね。いつもありがとうとか言わなさそう。

 

後半の感想(何もかも捨てて走れ!)

ホテルで豪遊するシーンでは、 我慢していろいろやってきたふたりが出会ってしまったんだな、と思いました。ささくれた気持ちを押し込めていた分、はじけちゃったというか。悲しいですね。豪遊シーンがかわいいほど悲しみが際立ちます。

出会ってしまったものの、お互いへの感情はさほどないっていうのも悲しさ倍増ポイント。

 

買い物した紙袋いっぱいのホテルの部屋で、無表情で座ってるりかさん、よかったです。いちばんいま楽しんでるはずなのに、ふと我に返るときがやっぱりあるんだなと。足元がすこんと抜けるんじゃないかという恐怖が、きっとそこにあるんだろうなと。

ホテルを出るとき、支払いは150万円ほど。

そこまでとは思っていなかったみたいで、りかさんは驚いていました。

さあ、破滅への加速のはじまり。

 

若い男のために部屋を借り、最新のパソコン(時代設定が90年代なので、今より購入のハードルは高いです)を買うりかさん。

横領が発覚しかけるものの、それはごく一部で、ごまかしたりかさんはその穴埋めと、さらにお金を手に入れるべく違った手口を編み出します。

そのせいで家のリビングが作業場と化しててまわりは片付いてなくて荒れ放題で、哀れに思う一方でこの人有能だなとも思いました。パソコンとプリンタ、プリントゴッコ?みたいなものも駆使して、偽造証書を作って。けっこうすごい。

 

それだけやばい状況になっても、あんまり必死なように見えないんですよね、不思議。宮沢りえの雰囲気のせいでしょうか。身に着けてる服とかも変わって(ちょっと派手になったけど洗練されてる~って感じでもない微妙なライン)、まだお金持ちのふりを続けています。

ただ、男もこのあたりになると変わってきていて、お店の人にちょっと態度でかかったり、学費をもらったはずなのに大学を辞めてたり。

そして来るべくして来た別れの局面。若い男は、りかさんが借りた部屋に女の子を連れ込んでいました。

が、そこでりかさんが「また週末行く」って言うんですよドア越しに。家まで追いかけてきた若い男に。ドア開けないくせに言うんですよ。絶対もう続けられないって思うはずの場面で…。でも、若い男のほうは正気に戻ってたみたいで、それはできないって言っておしまい。

せめて、相手のことめちゃくちゃ好きだったら、また続けられたのかもなと思います。でもそうじゃないから、泣いて怒ってケンカする、なんてこともできないんですよねこのふたりは。

 

すべてが発覚して、まあ有能な小林聡美の調査によるものなんですが、もうごまかすこともできずに会議室でじっと座る宮沢りえ。ふたりが対峙する長いシーンです。

ふたりの会話がよかったですよね…。

やりたいことやったんでしょ、っていう、ただ善の立場に立って糾弾するでもない小林聡美。「お金じゃ自由にはなれない。あなたが行けるのはここまで」

一方のりかさん、宮沢りえは最初に若い男と寝た夜の終わりに、駅のホームで月を見た話をします。夜明けの近い空と宮沢りえ…、いや美しかった。そんな序盤で彼女がみていたものをここに来て見せられるの、すごい、いい構成だと思いました。

 

そして何もかも捨てて、走っていくりかさん。

小林聡美も一緒に行ってしまうのかと思いました。行かなかった。

走る彼女は、怯えて逃げていてもいいはずなのに、のびのびして見えました。 

まとめ

何度も登場する、「贈り物」が象徴していたのはなんだったんでしょう。

学生時代のりかさんが海外の子どもに送ったお金。それに対しての感謝の手紙。

りかさんが夫にあげた腕時計。夫がりかさんにくれた高級腕時計。

りかさんが若い男にあげたお金、いろんなもの。若い男が喜ぶ姿。

最後にりかさんが、受け取るりんご。

最後の最後に、純粋な贈り物をもらって、りかさんは報われたのかな。自分が過去にしたことは間違いじゃなかった、って思えたのかな。

はっきり答えを描いていない、いい映画でした。

ちなみに今回の記事タイトルは、りかさんの顧客のせりふです。

痴呆でお金の管理がままならなくなってきていた女性で、いろいろおかしな買い物をしていて、その日も開運だかのおかしなネックレスをさげていて。

偽物なのにきれい、と言ったりかさんに対して、「いいじゃない、綺麗なんだから」。

偽物でもいい、という言葉が、りかさんに対してどう響いたのかなー、という小さいけれど刺さるやり取りでした。